記 横山 哲


メンバー 中村 新 横山 哲  期間 1996年9月15日~28日
 9月15日~28日にかけて、アメリカのヨセミテ国立公園に行ってきました。一緒に行ったのは、中村、辻、横山の3名で、ハーフドームのレギュラールートに登ったのは中村、横山の2名です。準備やヨセミテ国立公園での生活等については、他の2名からレポートがあると思いますので、ここでは、ハーフドーム・レギュラールートについてレポートします。
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アプローチ  地図でわかるようにHalf DomeへはHappy Islesから延々5、6時間(コースタイム)ほど、ハイカーに混じって、歩くのですが、我々は荷物が重たかったため、8時間もかかってしまいました。このアプローチは非常にしんどく、第一の核心といえるでしょう。水は道沿いの高度7400フィート付近にあります。(Half Dome基部にも水質は悪いですが水はありました)  なおMirror LakeからHalf Dome基部に直接上がるルートもあるらしいのですが、かなりきついガレらしく、荷物の多い我々は前述のルートを選びました。その日は、基部でツエルトを被って、寝ました。
Half Dome and Tenaya Canyon from Glacier Point
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登攀一日目 1~3ピッチ目中村さんリード、4~6ピッチ目横山リード。 各ビレーポイントには少なくとも一つはハンガーボルトがあり、非常に安心でした。(ルート後半にはアングル1個のビレイポイントもありましたが…)しかし私は5ピッチ目でピッチを切るべき所で、ピッチを切らなかったため、(ハンガーボルトがあったのにもう少しと思い、通り過ぎてしまった)キャメロットとエイリアン計3個でピッチを切ることになってしまいました。中村さんのユマーリングとホールバックの荷上げ、および自分のセルフビレーをカム3個に託したわけで、非常に緊張しました。(このルートを終える頃には、カムでのビレーやナッツにもかなり慣れました) この日に泊まったのは、6ピッチ目のSloping Bivyですが、ここは面積も広く、6~8人は寝れそうな、快適なテラスでした。

登攀二日目 7~10ピッチ目横山リード、11~16ピッチ目中村さんリード。  この日最初の7、8ピッチ目は、傾斜が緩く、ラインがわかりにくかったうえに、木が生えていたため、荷上げに際し、荷物が引っかかり非常に苦労しました。 9ピッチ目からは右側の垂壁に移り、ラインもはっきりしてきます。10ピッチ目のA1(ハンガーボルト)のあとの振り子トラバースは残置のビナがあったためスムーズにいきました。 12ピッチ目は右側の5.9のチムニー登りと、左側の5.11のクラックルートを選択できますが、結局左側の5.11のクラックを人工で登るほうが早く、ほとんどのパーティがこちらを登っていました。  次の13ピッチ目から16ピッチ目がまでが本日の核心部分でビレイポイントがはっきりしないため、この4ピッチ分を3ピッチで登ってしまいました。また13ピッチ目は厳しい(悪い)内面登攀で、中村さんの奮闘的努力で、無事クリアーできました。 この日は17ピッチ目のBig Sandy Ledge(Good Bivy)に泊まる予定でしたが、この日たくさんのパーティに抜かされ、 Big Sandy Ledgeが混んでいることが予想されたこと、16ピッチ目に着いた時点で既に暗くなっていたこと、さらに事前のドイツ人の情報どおり16ピッチ目もなんとか二人なら寝ることができるスペースがあったことから、16ピッチ目で泊まりました。

登攀3日目 17ピッチ目中村さんリード、18~20ピッチ目横山リード、21~24ピッチ目中村さんリード。 昨日の残り17ピッチ目を中村さんがリードした後、18~20ピッチ目を横山エイドでリードするも、遅いため多くのパーティに抜かれてしまう。

21ピッチ目のThank God Ledgeは幅30cmくらいのレッジをまずスタンスにして進み、レッジの幅が狭くなり立っていられなくなったところから今度はレッジをホールドに、さらにスタンスが切れたところで再びレッジをスタンスにして進みます。このレッジはすごい高度感があり、フォローの私はもろにびびってしまいました。さらにこのピッチはレッジが終わったあと、奥のほうのクラックを登るのですが、ここのリードはかなりきつかったようです。

21ピッチ目が終了する頃にはすでに暗くなっており、22ピッチ目からは昨日に続き、夜間登攀となりました。22ピッチ目はトポでは単純なボルトラダーのA2になっていますが、これがくせもので、ボルトラダー(ハンガーボルト)を登った後、振り子トラバースでハーケンに移り、ナッツのエイドを交えハーケン、ハンガーボルトのエイドで終了点に達するというパズルのようなピッチでした。

22ピッチ目終了点からは直上したため、23ピッチはとばし、直接頂上へ抜けました。この時点ではもうまっ暗のため、ルートがはっきりせず、もう少しで終了であることはわかるのですが、3通りぐらいのルートをいきつもどりつし、結局登攀が終了したのはなんと夜の10時半でした。

ガッチリと握手したあと、もう遅いのでとりあえずツエルトを被って寝ることとし、ひさびさにセルフビレーをとらずに眠りました。

帰路  HalfDomeの北西壁の裏側には、トレッカーのための鎖による道がついており、これを降りた訳ですが、鎖がなければ5.7くらいと思われるスラブを重い荷物を背負って下るわけですから、非常に厳しい。さらに岩場を降りた後は、アプローチと同様の道を引き返した訳ですが、これまた行きと同様、ヘバヘバにばててしまいました。

総括  当初の予定どうり、2泊3日で壁を抜けたわけですが、数多くのパーティに抜かされ、時間がかかり、2日目、3日目は夜間登攀となってしまいました。主たる原因は荷物の持ちすぎであり、ヨセミテでネイリングでないロングルートを登る場合は、荷物を軽量化し、スピィーディーに登ることが肝心であると感じました。


ハーフドームへの道

 

記 中村 新

うう、重い。ハーフドームへの道のりの長さと荷物の重さは、予想はしていたが強烈にこたえる。9月18日、ヨセミテバレーに到着してから3日目。ハッピーアイル・トレール からハーフドーム・トレールへ15km、標高差1100mは実に長かった。  この日、朝6時に起床、朝食を済ませ、ボーイスカウトスクールでサニーサイドキャンプ(キャンプ4)に残る辻君に別れを告げ、私は満杯のザックを、横山さんは8分どおり詰まった巨大なホールバッグを重々しく担ぎ、7:30のヨセミテロッジ発のシャトルバスに乗った。バスは10分ほどで、 ハッピーアイルに到着し、我々はそこでバスを降りる。いよいよ長い地獄のアプローチの始まりだ。トレール開始8:10。最初はそれほどでもなかった。これなら本チャンの涸沢へのアプローチとたいしてかわらへんやん、と思っていた。50分ほどで最初の難関ヴァーナルフォールの急坂。横山さんはかなりつらそう。そこで、ホールバッグとザックを交代。私がホールバッグを背負って歩き出したのだが、なんとホールバッグのバランスの悪いこと。総重量もさることながら、重心が体から離れており、体の線にフィットしていないので背筋に負担がかかる。横山さんがつらそうだったのは納得。まるで腰の曲がったおじいさん状態でしばらく急な階段を登るが、10分ほどでくたくた。ちょっと余分に持っていたペットボトルの中の水を捨て、荷物の詰め形を改善して再び歩き出したが、またもや10分ほど、滝の中間ぐらいでもうダウン。背中が痛くてどうしようもない。そこで横山さんにホールバッグを担いでもらい、私は再びザックを担ぐのだが、ホールバッグの後遺症でペースはがた落ち。ホールバッグの横山さんの方が早いくらいだ。  そうこうしつつも、何とかヴァーナルフォール滝を超え、大休止のあとひたすらトレールを進む。マルセド川沿いの周囲の景色はあるときは箱庭的であり、あるときは大自然の荒々しさを見せ、大変美しいのだが楽しんでいる余裕は全くないまま、次の大難関、ネヴァダフォールだ。ここは傾斜はヴァーナルフォール程ではないが、急坂の距離が長い。  休み休み、本当にあえぐようにして階段状の坂道を登る。そんな私たちのを、ハーフドームへ向かう日帰りのトレッカーが「ハーイ」「どこへいくんだ?」「すごい荷物だなあ、何日山にこもるのか」などと聞きながら次々に追い抜いていく。老若男女、けっこうかわいい女の子も多い。もう、こうなったらトレッカーギャルウオッチングだけが楽しみだ。行動食をとりつつようやく急坂を超えると、平坦地がしばらく続き、リトルヨセミテのキャンプ場の横で大休止をとり、いよいよハーフドームへの樹林帯に入る。このあたりから、すでにハーフドームの頂上から帰ってくるトレッカーたちとすれ違うようになってくる。要するに彼らは私たちの倍以上のスピードで歩いているのだ。途中、ドイツ人のクライマーとすれ違った。話を聞くと彼らは1ビバーク約11時間で我々のめざすレギュラールートを登ったという。すごいスピードだ。彼らは我々の大量の荷物を見て驚いていた、いや、ちょっと馬鹿にされているような気もした。ヨーロッパ人のクライミングスタイルというのは20ピッチ以上のロングルートでもごくわずかのビバーク装備だけを持って、ひたすら体力と技術を信じてスピーディーに登るのだ。話には聞いていたけれど、彼らと話していてそれを実感した。  樹林帯の中程に、泉がわいている。計画段階ではここで水をくむはずだったのだが、我々にはこれ以上の重さを担ぐことはできなかった。そこで、水をくまずにいったんハーフドーム取り付きまで行って荷物を置いてから水をくみに戻ることにした。しばらくすると樹林帯がまばらになり、ドームへの入口のゲート(雷が鳴っているときはドームに登るなと書いてある)の前で、登山道と別れ、右側にあるクライマーのトレースに入る。岩ががらがらした比較的明瞭なトレースを数分行くと、北西壁が覆い被さるように見えてくる。北西壁基部を下り気味に約30分で北西壁の取り付きに到着。時刻は16:45分であった。取り付きにはサニーサイドのキャンプ場で一緒だった日本人パーティーが1ピッチ目をルート工作中であった。  北西壁は直下から見ると700mの高度差はよくわからない。とにかくほぼ垂直の壁がずーっと続いていてその上に紺碧の空が見えていた。少し休憩してから、私一人で森の中の泉まで9リットルの水をくみに戻り、再び取り付きに戻ったのはもう薄暗くなりかけた19:30であった  持参のコンロで缶詰を暖め、パンと一緒に夕食。横山さんはどうも缶詰の味が苦手のようだが、私はそれほどでもなく、けっこうたくさん食べた。ツェルトを張って、21時過ぎに就寝。大変疲れているはずなのだが、別に興奮しているわけでもないが余りよく眠れなかった。

ここからのクライミング部分は、横山さんのレポートに詳しくありますが、私としては結構、クライミング自体は楽しめたと思う。クライミング自体で、最もしんどかったのは「血の13ピッチ目」で、幅1m位のスロット状のオーバーハングを10m以上、バックアンドフットとハングしたコーナーに走るクラックで体をずり上げ、しかも最後の方はプロテクションがとれないという、恐怖のピッチであったが、ここで3ピッチ分を2ピッチで登ることができ、時間短縮できたのは幸いだった。また、荷上げとユマールはつらく、腰にハーネスずれができて、3日目は大変痛かった。  さて、我々はハーフドームの頂上で、9月22日の朝を迎え、ハーフドームの急な花崗岩のスラブを、トレッカー用に設置されている鋼鉄のワイヤーにすがりながら下り、ハッピーアイル・トレールを再び15km下った。まるまる3日間、最後は夜中の22:30までかかった夜間登はんでくたくたの体に、30kgを超える荷物はほとんどいじめとしかいいようがない。しかも靴は、クライミング中に重荷にならないよう軽量のトレッキングシューズをはいていたので、親指の爪に負担がかかり、いくらきつくひもを締めても痛くてしょうがない。(つい先日結局右足の親指の爪は完全にとれました)何度も荷物を投げ出したくなりながらも、13:00ついにハッピーアイルのバス停までたどり着き、ジュースで思う存分のどを潤し、我々のハーフドームは無事終了することができた。  と、ここまでは本当に無事だったのだが、私はアプローチとクライミング中にひどい日焼けにかかっており、下山後1週間は顔が真っ赤に腫れ上がり、非常な痛み。さらに2週間は唇の廻りの化膿がひかず、帰国後、会社に出勤してからもずいぶん恥ずかしい思いをした。そういえば、ヨセミテに着いてから、ハーフドームに行くまでの間にもなんとなく肌がちくちくする感じはあったのだ。でも、私は日本では冬以外日焼け止めなど塗ったことがなかったので油断していたのだ。やはり、乾燥した空気の大陸では紫外線は強い。みなさんも是非気をつけて下さい。  ヨセミテは大変いい経験であり、思い出になった。20万円以下でも行って来れそうだし、またチャンスが有れば行ってみたい。次はやはりエルキャプのノーズかな。できればスピードクライムをしてみたい。また、ショートルート三昧もいいな。そんなこんなで夢を残してくれたヨセミテであった。

ビッグウォールクライミングにおける装備

ヨセミテのビッグウォールクライミングにおける装備について若干私見を述べてみたい。

<ロープ>  一般的には、11mm*50mをメインザイルに用いて、荷上げ用に10.5mmまたは9mm、荷上げコントロールおよび非常用に9mmということになっている。今回、我々はほぼこの一般論通り、10.5mm、10.5mm、9mm(全て50m長)の3本のロープを持っていき、メインの10.5mmと荷上げ用の10.5mmはセミダブル形式というか、リーダーはメインと荷上げ用の2本のロープをハーネスに結び、ランナーの取り方はメインはシングルロープ形式で用い、荷上げ用はビレーヤーの直近(ギアを送るときに手でランナーをはずせる位置)で1カ所だけランナーを取って、万一メインが切断されても取り付きまでは落ちないようにビレーヤーはダブルロープ形式の確保を取った。重量はそれぞれ3.5kg、3.5kg、2.6kgであり、ロープだけで合計9.6kgである。安全係数は高い方がいいのはもちろんであるが、重量が重いとそれだけ壁を抜けるのに時間がかかり、アプローチで体力を消耗する。したがって自分たちの体重なども鑑みて最適な選択をするわけであるが、我々日本人がの場合、メインは10.5mm、荷上げ用は9mm、補助用は8mmで十分と思う。