記 槙野勝治

1月上旬、梁瀬さんから次の連休に、岳沢へ行かないかと誘いの電話があった。確か正月にそのルートに挑戦しているはずなのに、おかしいなと思って聞いてみると、戦意が出ずF2の滝を越えたところで引き返したとのこと。私は、正月休みは、どこも行けていないので、即OKの返事をした。どんなルートか調べないかん。アイスクライミングの本にルートがでていますよと、梁瀬さんが言っていたはず。調べてみるとなんと、凄いルートではないか。「岳沢は三峰川との出合いより大仙丈岳まで高度さ1100mを一気に突き上げる豪快な沢。国内屈指のスケールをもつビッグルート。その内、F8ソーメン流しの滝は110mの規模をもつ。」

アイスクライミングは去年八ヶ岳南尺大滝へ行ったが、その一度きり。大丈夫か。

登りきるための作戦を立てた。
1 今ひいている風邪(喉が痛く、寒気がする)を早く直すこと。
酒は飲みに行かない。
残業をせず早く家に帰ること。

2 ザックを軽くすること。
シュフフ等買い変えること。
不要なものは持っていかない。
寒さはがまんする(軽装)

早速、ログケピンに行った。シュラ フは一つしか置いてなかったが、それは3シーズン用の化繊シュラフ、まさに探していたもの。
シュラフカバ-は、モンベルのUL。軽くてすぐれもの。
水筒は容量600ccのもの(テルモスではない)にした。

それら買い、必要なもの(テント、アイスハンマー、ザイル、無線機、登攀具ほか)をザックに詰めて重さを量ると、13.8kg 軽い。
風邪は依然として直らない。出発前日までに直らなければ、止めにしようと思っていたところ、13日になって 良くなってきた。よし行ける。

1月14日23時梁瀬さんが待つ石山駅へ行った。なんか様子が変だ。
「兄貴が、今日になって低気圧が来ているから止めにすると言っている。僕は行ってみて現地で判断したらよいと思うのだけれど。」
仕方がない、リーダーが言っていることなので。あきらめよう。そう思うと、何かホッとするものがあった。肩の力がすうっとぬけていくのが分かった。今回は体調も悪かったからなあ。
梁瀬さんと、お好み焼き屋に入った。彼は、今回の山行が終わったら、資格試験を取り就職の準備をするつもりでいたのにきりが付かないようであった。

急転直下。
1月15日、梁瀬さんから電話が入った。高気圧がきているので僕らは行きますけどどうしますかと。もちろん行こう。体調も昨日よりも良くなっている。
ただ、出発が一日ずれたので行動日が3日しかない。当初の予定より一日少ない。帰れるのか。速やかな行動が必要である。

僕ら3人は、梁瀬宅をPM12時前に出発。丸山出会いの登山口に早朝到着。林道は新雪が積もっており、これから奥のラッセルの苦しさをものがたっていた。ここからは、岳沢越えのルートをとるが、峠付近から膝当たりまでのラッセルとなってきた。三峰川に着いたのが昼頃。下流へしばらく下って、岳沢へ入る。雪が深い。この深い雪の中を1100m登るとなると、相当な時間がかかる。予定逸り下山できるのか。取り敢えず今日は行ける所まで行って、明日の行動を判齢するしかない。

F1は15m �、1年振りのアイスクライミング、なんかぎこちない。
F2は10m �、解説には傾斜が緩く楽々越えることができると書いてあるが、フリーで行ったので、ちょとしたトラバー地点でピピってしまった。今日はここで時間切れ。少し上に登ったところに、広く平らな所があり、幕営地とする。

雪が深い。速やかな行動をしなければ、あさっての月曜日中に帰れない。なんとか頑張ろう。
今回の荷物の中で一番の賢沢なもの-像の足を取り出して履こうとすると、他の二人の羨望の目がひかった。外で寝たらどうかなどと無茶なことをいう。星はキラキラ光るように輝いている。明日の天気は約束されたようだ。

翌日(17日)、F3を越え午前中のハイライトF4に取り付く。全長30mのうち下部10mが華壁で、�+となっている。空荷で登り荷揚げすることにした。垂壁の登りは一気に呼吸を乱すが寒かった体を暖めてくれる。
F4を登り終わった頃からやっと去年の感覚が戻ってきた。
F5からF7は、ザイルを出さずに快適に登り、岳沢の一番のウリ F8(V+)のソーメン流しの下部にきた。ソーメン流しの滝は、全長110m、最初傾斜のゆるい氷爆から徐々に傾斜を強め、最上段には10mの垂壁がある。かなりのスケールである。
時間は12時半、順調なペースなのでみなの顔に余裕が見られる。
1ピッチ目梁瀬弟が取り付く。順調な、見ていて安心のできる登り。40m少しザイルをのばしピッチを切った。2ピッチ目兄が取り付く。このピッチは最上段下部までのなだらかなところ。3ピッチ目、いよいよメーンイベントに来た。取り付くのは兄。ザックは荷揚げするため空荷で登る。いつものとおり、なんやかんや言いながら登っていった。

弟も登った。ザイルが上から垂れてきたので、ザックにくくり付け、荷揚げの準備をして、私も登り始めた。F4の垂壁より少し難しいと感じた。やっとのおもいで垂壁を抜け、緩斜面を登って二人の姿が見える所までくると、何か変な雰囲気だ。ザックが上がってこないという。何てこったあ。緩斜面を下って、垂壁の手前から見ると、オーバーハングの所で岩か何かにひっ掛かっている。ザイルを緩め一気に引き上げたりしたが、上がってこない。今度は兄が下に降りてみると言う。やっとの思いでザックが上がってきた。そんな事をしていたおかげで、辺りは薄暗くなっていた。フッキ-な事に登り切った所に広く平らなところがあり幕営地とする。高度が高いからか、今日は昨日よりさらに寒い。像の足もきかないなあ。

翌日(18日)、下山日。なんとか下山予定時刻(PM8時)までには、電話が通じる所までたどり着かなくてはならない。F9(25m,�-)は、結構高度感がある。ノーザイルなので、パイルの効きに慎重になる。落ちたらおだ仏だもんなあ。
F9を越えるともうこれと言った滝もなく、また早朝であったため雪面も締まっており、順調に高度を嫁げた。ただ、急傾斜面であるため、かなりのアルバイトであった。
尾根にでると、今までの天気が急変し、小雪交じりの強風となった。こうでないと雪山に登った気がしない。嬉しくなってくる。

大仙丈岳から仙丈岳へ。日本100名山、3千m嫌の一つを、アイスクライミングのルートから冬季に踏めて感激。
あとは、もう下るのみ。北沢峠には12時頃着。ここで、初めて3人握手を交わした。戸台には4時頃到着。山荘からタクシーを呼んでもらった。30分程かかかるという。その時間はなんと素晴らしい時間であったろう。

なぜって、そこにはビールがあったから