日時:2015年7月18~20日
場所:群馬県谷川岳烏帽子岩奥壁南稜
メンバー:から、くら、T
ついに谷川岳へ。とにかく遠かった。
「本チャン」という言葉をこれほどまで、深く考え実感したことはなかった。
ひたすらぬめる岩場、長いアプローチ、落石、終了点からのエンドレス藪漕ぎ、15時間行動・・・。
登攀力だけではなく、山の総合力が必要なルートだった。岩場自体は簡単だが取り付きまでやルートファインディング能力やそれなりの体力が必要だった。
7月17日
京都は恐ろしいくらい雨が降っている。昼ごろから夕立のような本降りの雨の勢いが全く弱まることなく夜まで降っている。鴨川も川べりの歩道が完全に冠水していて荒れ狂う水の勢いだった。
7月18日
12時を回ってもまだ谷川に着く気配がない。夜があけるころやっと群馬県に入り水上ICでおりてとりあえず土合まで行ってみる。土合駅の下り線ホームの長い階段を下りてみたりする。雨は止んだり降ったり。とりあえず仮眠をとる。猿ヶ京の温泉に行ったりして前夜泊地へ。軽く乾杯してご飯を食べる。雨は上がっていた。18時にテントに入る。まだまだ外は明るい。
7月19日
2時起床。朝食を済ませてロープーウェイ下の駐車場に車を停めて清水峠へ向かう林道を歩く。暗い。登山指導センターで登山届を提出する。マチガ沢を過ぎて一の倉沢出合。夜も空けきらないが歩けば汗がでる。トイレもきれいで高校山岳部の生徒がテントを撤収しているところだった。ハーネスをつけて一の倉沢の河原を歩くとテールリッジ下の雪渓に2つのヘッドランプの明かりが見えた。
予想外に雪渓が繋がっており、雪渓を歩き、テールリッジに取り付く。チェーンスパイクなどあると便利。雪渓のスプーンでくりぬいた凹凸にそっと足をおいて進んでいく。最後のほうはちょっぴり傾斜が強くなり怖かった。雪渓の切れ間からテールリッジの岩に飛び移るのが怖い。残置のザイルがありがたい。テールリッジはたしかに3級くらいの岩場があり、フィックスロープがあったりと整備されている。
↑ピラミッド型の衝立岩
当時難攻不落とされていた衝立岩は東京雲稜会の南博人らによって初登攀がなされた。(衝立岩雲稜第一ルート)
その後ザイル宙吊り事件などが起きた痛ましい場所でもある。その奥に烏帽子岩もみえる。
↑テールリッジにはとにかくリングボルトが乱打されている。
中央稜の近くになると確かに少し悪くザイルを出したい。両側はかなり切れ落ちていて高度感がかなりある。
中央稜取り付きに着くが誰もいない。テールリッジが終わったが湿気がかなりありものすごく暑い。水をがぶがぶ飲んでしまう。南稜へのトラバースに入る。
染み出しとかいうレベルではなく普通に水が流れている。ファイブテンのアプローチシューズはそれなりにフリクションが効いてそこまでスリップは怖くなかった。乾いていたらなんともないのかもしれないが、ぬめりのあるところもあり完全に乾くことはないんだと思う。なんとなくすべってもあの傾斜のスラブならなんか張り付くかなんかで止まりそうな気もしないでもないでもなかった。
あるサイトでは「あのトラバースは確かに怖いがあそこでロープを出すなら南稜を登る資格がない」と書かれてあった。確かにそう思うが、あんだけ濡れてたら確かにねぇ・・・。後続のパーティーはザイルをだしていたようで1、2ピッチ目から上でみていたがかなり時間がかかっていた。まだ登攀が始まっていないのに相当疲れて取り付き着。
1P:Kリーダーリード 20m
南稜取り付き
どうやらヘッドランプで雪渓を歩いていた先行パーティが既に1P目に取り付いていた。そこまで傾斜もきつくないしランニングもとれそう。壁も濡れてはいないし特に問題なさそうだ。
と、思っていざKリーダーが先行するがかなりすべるらしい。足がきかないようだった。最初で体もそこまで動かないのでハーケンを打ち足す。そんなに悪いのか!?と疑問に思ったが登ってみると確かにすべる・・・。
磨き上げれたスタンスは一目瞭然だが、ぬれている。チムニーとつなげて1Pで行く予定だったがギアを予想外に消費してしまい、先行パーティー同様にチムニー下でピッチを切る。やたら水がしたたっている。乾いた場所がほぼない・・・。
2P:Kリーダーリード
チムニーもホールドスタンスは豊富でピンもそれなりにある。しかしすべて濡れている。
建築資材の太い鉄筋を削りだしたようなハーケンが打ち込まれている。だいたい25mくらいか。ピカピカのボルトが打ってあり安心。
3P:Kリーダーリード
なんとなく傾斜もなく難しくなさそうだが、やはり岩全体が濡れていて厳しい。まぁホールドスタンスもそれなりにあるので問題はないが、やはりというかもちろんというかクライミングシューズの濡れた岩のフリクションはやばい・・・。草付の前の終了点でピッチを切る。
4P:Kリード
リードをかわってもらってとりあえず草付をザイルをひいて上がる。ただ歩くだけ。
5P:Kリード
あたりはガスでなんかもう景色とかも見れないし、染み出しとかいうレベルじゃなくて岩の上から雨のように水滴が降ってくる。乾いた場所がない・・・。
岩を少しまくようにして懸垂下降用のルンゼの脇を登っていく。コールが一の倉沢にそのまま反響しないため声がするが、言葉が聞き取りずらい。25mで切る。
↑雪渓がばんばん崩れて雷のような音が一の倉沢に登攀中に何度も響き渡る。
6P:Kリード
本当は5Pと6Pはつなげる予定だったがコールが届きにくかったこともあってⅣ級のリッジ手前まで行く予定だったが、つっこんでしまう。出だしのヌルヌルさがハンパじゃないところをA0で通過。マントルで上がったところがまたぬめりがひどい。キャメロットの#2がきまる。
このヌメヌメゾーンから多分右のリッジにでるようだったが、どこででていいかわからず左の凹角へ行ってしまう。相変わらずのぬめぬめでひどい。腐ったハーケンも形状が今と全く違ってなんだか歴史を感じる。と言ってもそんな余裕はなく、谷川岳南稜ってこんなに沢登りぽいのかよと悪態をついて登る。相変わらずのひどさ。トポによればⅢ級らしいがまったく違う・・・。Ⅲ級ではないのは確かだ。ここあってるのかなと疑問に思いつつも腐ったハーケンがでてくる。ハーケンもまた錆び付きまくって岩と同化していることもしばしば。「もう無理!!」と辛抱堪らず遂にA3用紙2枚くらいの狭い狭いテラスでピッチを切る。少し新しめの軟鉄ハーケンと4枚くらい連打され錆びてリスと一体化しているハーケンからぶらさがる色あせたやばめのスリング。そしてもう一枚アングルのハーケンを自分で打ち足して終了点を作る。
さっきのピッチには南稜からのトラバースでザイルを出していたパーティーが追いついてきている。
KリーダーとTさんをセカンドビレーで上げる。
↑5・6Pを俯瞰する。この写真の左側のルンゼは下降用のルート。青いヘルメットは先行パーティの人。懸垂下降中。
7P:Kリーダーリード
もうなんか気疲れしてしまいKリーダーにリードを代わってもらう。確かにあと5mくらいでリッジに出そうだが、ここはもう、すぐに左に1mくらいトラバースしてリッジにでたほうがよさそうだった。
Kリーダーからコールがかかり、打ったハーケンを回収してよっと右にトラバースすると、白いリッジが現れる。間違いなくこっちだ・・・。もう少し早く凹角にでているべきだった。ガスが少し晴れ眼下には一の倉沢の雪渓や稜線まで続きそうな白いスラブがみえる。ここが岩も乾いていたらどんなに快適だろうかと思いながらまたすべるリッジを登る。このピッチはかなり見せ場というか一の倉もよく見えるいいピッチだと思う。しかしそれを楽しむ余裕がなかった。
8P:Tリード
Ⅴ-のフェースの最後のピッチ。7Pの終了点もまたぬめりがひどい。びっしょびしょ。フェースを見上げると、てかてかしてなんかもう今日の南稜のコンディションのすべてを物語っているようだ。
ピンの間隔は狭くⅤ級までもいかないような気もした。思いっきりA0する。ぬめっているからしょうがないと自分に言い訳しながら登っていく。といっても全員A0で登った。最後をマントルでいって終了点。少し上がって左のルンゼ側には懸垂支点がある。
これにて一応登攀は終了。時折ガスの切れ間に烏帽子岩が見える。
あー後は国境稜線へ行くだけかと思っていたがそんなことはなかった。
懸垂岩まではけっこう道がわかりにくく水もどばどばでていて岩場もけっこう厳しくザイルをもう一回出す。右側から笹をつかんで強引にあがる。藪漕ぎというかなんというか・・・。ルンゼにでたところにも時々ハーケンが打ってある。烏帽子岩側にできるだけ沿って尾根にでるが、藪漕ぎ。藪漕ぎ。
標高が上がってきて笹は姿を一旦消すが前には30mくらいの岩峰が聳え立っている。傾斜はないが岩がもろい。ザイルを出して通過するが、トップが落とした落石が見事にザイルに命中し50mのちょうど半分が外皮が切れ芯も三分の一切れていた。人に当たらなくてよかった。と思うばかり。
それから細いリッジなどを通過していく。ここらへんも初心者であればザイルを出す必要があるのかもしれない。北鎌尾根のようなところで、ところどころ少し怖い。
5ルンゼの頭とおぼしき細いリッジを通過すると笹が現れひたすら藪漕ぎ。ガスでゴールが見えない。笹が足にまとわりついて進みづらい。笹を踏むとすべる。笹の下に隠れた凹み。
↑エンドレス藪漕ぎ(藪漕ぎグレードⅢ-)
とうとう国境稜線の登山道に着く。一の倉岳のすぐ横に飛び出してきたようだった。ハーネスを外して登山道脇に腰掛ける。登山客が何人かすれ違う。さすが谷川岳だ。
なんとか一呼吸おいて谷川岳を目指す。
まだまだ陽も高く暑さが堪える。オキの耳を通過してトマの耳へ。天神平のロープーウェイが17時で終わるため、この時間はもう山頂には谷川岳の山頂の小屋に泊まる人くらいしかいない。そして西黒尾根を下る。長い長い下り。
時々現れる鎖場。岩場。しゃがんだり立ったりを繰り返す。そして暑い!! 厳剛新道の分岐で休憩し、樹林帯の中を下る。すべる岩に四苦八苦。鎖場なども現れなかなかの道だ。となりのマチガ沢の雪渓もまだまだ残っている。なぜかマチガ沢の雪渓にはシュプールとおぼしきものがありポールも立っている。落石の危険もあるような場所でなぜこんなことをしているのだろう。何人かの登山客を抜かしてやっとマチガ沢出合に着く。
うっすらと夕闇の迫る林道。アスファルトの上にへたり込む。疲れました。とても疲れました。
登山指導センターまでの林道を歩いていると大粒の雨が降り始めた。下山中に降らなくてよかったなぁと少し思ったが、なんだかもう疲れすぎて降るならもっと降れと思うばかりで、帽子のつばにあたる雨粒の振動をなにか諦め気味にフラフラしながら駐車場へ向かった。
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