記 中島 憲一

 私と「山の花」と聞けば、誰もがミスマッチとお思いでしょう。実際その通りで、花を愛でに山に登るなんて、覚えている限りでは、取立山へミズバショウを見に行ったぐらいで、死んだ親父から、「オマエなあ、しょっちゅう山に行ってるんやったら、えびね(野生の蘭)ぐらい見つけてこい」とよく言われていました。
 長く登っていながら、印象に残る花との出会いも数える程で、花の名前はチングルマやニッコウキスゲぐらいしか知りません。以前「山渓」付録の、高山植物ポケット図鑑を持っていましたが、いかんせん小さすぎて(山に持っていくには便利だけど)、あまり見ることもなく、いつのまにかなくなって(捨てて?)しまった。

 さて、この写真集ですが、本屋で買ったのではありません。だいぶ前、北岳に登った帰り、たまたま広河原のロッジで見つけたものです。何気なく手に取ると、見開きに『山の花、自然の美しさ 白籏史朗 』と書かれた著者の自筆サインと印鑑が押されており、お土産代わりに買ったものです。もし、白籏史朗氏のサインがなかったら、まず買わなかったでしょう。

 『山の花抒情』の題名どうり、高山植物や野の花が持つ美しさを表現した写真集で、B5版の花の写真120種あまりと、簡潔な解説、撮影データが記されています。また巻末のエッセイからも、高山植物に対する著者の愛情と造詣の深さが感じられます。

 写真で見る山の花はすごくきれいです。ただ、私は個人的にひっそり咲いている花よりも、派手なお花畑(例えば、太郎平で見たニッコウキスゲの大群落とか)が好みで、被写体がひとつひとつの花というのに、ちょっと物足りないものもあります。

 そういう訳で、この写真集は買った当初から今に至るまで、たまに思い立っては、ぱらぱら見る程度で、これで山の花のことを調べたり、写真撮影の参考にしたことはありません。それでも、花の写真を見て、ごく自然にきれいだと感じたり、この花が咲く山に行ってみたいとか、あれこれ思いを巡らせるだけでも、癒し系というか、日々の暮らしにうるおいを与えてくれます。

 山好きの人なら、花の写真集を一冊持たれてはどうでしょう。見ているだけでも楽しいし、山行のきっかけになるかもしれません。また、山で見かけた花を調べるのに、図鑑がわりになるのでは。

(付け加えると、著名写真家のサイン入りならプレミアがつくかも?)


『山の花抒情』 ~ 白籏史朗 写真集 ~
日本カメラ別冊  著者 白旗史朗  日本カメラ社 1986年

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この原稿を書いているうちに、「いっちょう、花の写真を撮りに行こう!」という気になり、7月下旬「白山」に登りました。

 写真の心得があまりない私ですが、デジタルカメラは持っています。デジタルカメラなら、失敗を気にすることなく何十枚でも撮れ、すぐにモニターできて編集・画像処理も簡単。なかなかスグレモノです。 登ったのは、別当出合から砂防新道をへて、弥陀ヶ原、室堂、御前ヶ峰に至るコースです。登っているときは暑いのと人が多いのとで、あまり花を見る余裕はありませんでしたが、下山中はゆっくり花を眺めることができました。 花の写真も撮り出すと面白い。お花畑をウロチョロして、いろんなアングルで写真を撮りまくったので、下山は遅れる一方でした。
 ところで、『 某お宝写真館 』は閉館したのでしょうか?

 ちょこっと写真に凝り出したんで、webの新コンテンツに「山で出会った花」なんて企画を立ち上げませんか? 有名無名の「花の名山」を訪ねるも良し、知られざる山の花とか、意外なシチュエーション?で見かけた花とか。

 先日、雪彦山で地蔵正面壁の岩棚に、オレンジ色のきれいな花が咲いていました。パートナーの奮闘をシリメに、ビレイしている間、ずっと見とれていました。