日時:2019/3/21-24
メンバー:鹿、樫

転職して比較的有休をとりやすくなった樫さん。飛び石連休をつなげてどっか行きましょうという話になった。せっかく休みが取れるのだから土日で行けないようなアプローチの長い山行がいい。手ごろな難しさで山深いアルパインルートということで北岳バットレスの第4尾根主稜にチャレンジすることになった。本当は3/20から休みを取って5日間使うつもりだったが、早く入山しても21日は悪天でどうせ動けないので、下界で雨をやり過ごしてから入山することにした。

3/21
午前いっぱいは雨予報。冬山装備を濡らしたくないので、午後から入山することにして、身延まんじゅうを買いに行ったりして暇をつぶす(ゆるキャン△の聖地巡礼である)。
天気が回復し始めた昼頃に奈良田の開運隧道に行ってみると、なんと工事車両がひっきりなしに行き来していて、どうも歩いて行ける雰囲気ではない。現場の方にお伺いを立てたものの結局通過の許可は下りず、途方に暮れてしまう。
残された選択肢は夜間隠密行動による鉄柵突破か、夜叉神峠からの迂回コース。楽なのは奈良田ルートだが、奈良田にとどまってもいつ出発できるかわからないし、できるだけ世間と波風立てずに生きていきたいということで、夜叉神まで回り込むことにする。(まあそっちもリンちゃんが行ってた場所なので良しとしよう…)
2時間弱かけて夜叉神峠駐車場にたどり着くと既に15時である。一般的な登山の出発時間としてはあり得ないが、行くしかない。ところがなんと無情にも駐車場の奥のゲートには「徒歩による通行も禁止」と書かれていて、極めつけに見張りのおっちゃんもいる。入山できひんやないかい!年中こうなんかな?
夜叉神トンネルが使えないとなると、登山道を歩いて夜叉神峠を越えるほかない。最高にだるいが、もう残された道はない。というかいいかげん早く山に入りたい。峠越えを決心する。ようやくスタートだ。

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↑行動食は身延まんじゅう

最近山中で連泊することがなかったので、峠までの少しの登りでも重荷が堪える。夜叉神峠から先の登山道は廃道となっている。最初と最後はピンクテープがたくさん付いていて登山道跡も明瞭だが、中間部のトラバース道は軒並み崩壊していて通れないので道を無視して尾根上に逃れるなどして時間を食う。しばらく地形を確認しながら下降し、道路に出る少し手前で登山道跡を再発見して辿ることができた。荒れ果てた道で非常に疲れた。道路に出たのは17時ごろ。もう正直テントを張って寝たい。だが目的のバットレス登攀を考えると、せめて今日中にあるき沢橋まで行けていないと非常にまずい…。体はザックを背負うことを拒否するが、心を奮い立たせてまた歩き出す。林道は強烈な向かい風。鷲ノ巣山あたりで真っ暗になる。今日は逆境だらけだ。気温は高く全く寒くないのが救いか。結局あるき沢橋にたどり着いたのは20時過ぎ。テントを張ったらもうご飯を作る気力もなくなって、ウイスキーとおつまみで軽く晩酌をしただけで就寝。

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↑夜叉神峠

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↑あるき沢橋に到着

3/22
うっすら明るくなり始めてから出発。今日の仕事は池山吊尾根をひたすら登ることだ。最初は雪のない落ち葉の登山道だが、傾斜がきつくなり始めると道が氷に覆われた要アイゼンゾーン。途中まではツボ足で頑張ったが耐え切れずアイゼンを付ける。池山小屋手前の傾斜が緩くなったあたりからしっかり雪が出てきたのでスノーシューに履き替える。
古いトレースがうっすらと残っておりラッセル地獄というわけではないのだが、荷物が重くてとてもしんどい。砂払の手前で大休止×2。今日はとても暖かく、行動中はTシャツでもいいくらいだ。

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↑はあ~しんど

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↑ボーコン沢の頭辺り

ボーコン沢の頭を登りきると、突然目の前に北岳が現れた。圧倒的な存在感。これを見るだけでもここまで来る価値はある。
微妙なアップダウンのある広い尾根をだらだら歩き、八本歯の手前の緩くなっているところで幕営。バットレスを間近に臨める素晴らしい場所だ。
テントの中で水を作りながらラジオを聴いていると、イチロー引退のニュースが流れてきて衝撃を受けた。
新元号の発表も再来週に迫っているし、着実に時代が変わっていくのを感じる。

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↑ついに北岳と対面

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↑白と黒のコントラストが素敵

3/23
夜中は少し風が吹き、気温もぐっと下がってなかなか寝付けなかった。
3時半起床の予定だったが1時間寝坊してしまい、結局明るくなってから出発。
今日は見事な雲海で遠くに富士山が頭だけを出している。

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↑雲海を眺めながらのパッキング

八本歯のコルから第4尾根下までのトラバースはたくさんの急な小尾根や沢型を突っ切らなければならず、雪崩や滑落が結構怖いところだ。今回は一般的なDガリーからではなく、「冬季クライミング」に載っていたBガリーからのアプローチを採用した。Bガリー入り口は急な沢型となっていて、奥にはBガリー大滝だろうか、傾斜のある岩肌が構えている。その左側には急な草付きがあり、そちらは簡単そうに見えたのでノーロープで突っ込むことにした。見た目よりも岩盤が出ていて多少緊張したが、問題なく突破できた。その後は左に回り込んで第2尾根に乗り、真っ白なCガリーをトラバース。最後は第4尾根の岩盤の基部を辿ってやっと取付きに到着。
※Bガリーからのアプローチは総じて技術的な難しさは少ないが、積雪の状況によってはしんどさや危険性が格段に高まると思われるので注意が必要だろう。
(とはいってもそれはDガリーやほかのルートでも同様とは思うが)

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↑八本歯のコル

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↑トラバース

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↑Dガリー 奥の草付きを登った

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↑第2尾根から第4尾根へのトラバース

さて、いよいよ待望のバットレス登攀だ。
取付きから見上げる第4尾根は案外緩く見える。
時間は9時前。寝坊したにしては悪くない時間かな。てきぱき登っちゃいましょう!

1ピッチ目:樫さんリード
初っ端に2~3歩程度の岩が出ていたのでロープを出したが、その後はずっとただの雪の斜面。
白い岩のクラックあたりなのだろうか、ただただラッセルがだるいのみ。

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2ピッチ目:鹿リード
草木交じりの岩場からスタートし、ピラミッドフェースの頭を右に回り込むように雪の斜面を登る。しかし今度はすぐ下に岩盤があるようであまり安定しない。
途中草付きにイボイノシシを1本決めていくが、それ以外はあまりプロテクションをとれるような場所が見つからず、ちょっとひやひやした。

3ピッチ目:樫リード
雪稜ピッチ。雪をかき分けながらの登攀となり時間がかかる。途中岩を回り込むところなどもあって、単純ではない。
樫さんはアンカー構築に苦戦していたが、ロープいっぱいに伸ばしてマッチ箱の懸垂支点をうまく掘り当てた。
だんだん雲海が上がってきたのかガスに包まれて辺りは真っ白。

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4ピッチ目:懸垂
マッチ箱からの懸垂。掘り当てたのが左寄りの支点だったので、左の斜面に向けて降りる。特に問題なし。

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5ピッチ目:雪稜
ただの急な雪稜、というか雪の斜面。
上に城塞ハングが見え、その下までは問題なさそうだったので、ノーロープで歩く。

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6ピッチ目:鹿リード
技術的核心?城塞ハング。別にハングしているわけではない。
凹角は凍ったチムニーとなっており、短いが身体全体を使ったミックスクライミングだった。なんとかテンションかけずに突破。
登りきった先は雪稜になってて良いビレイアンカーが取れないので、少し手前でハイマツを掘り起こしてアンカーとした。

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あとは雪稜や雪壁のトラバースだけなのでロープをしまって黙々と登る。尾根を登りきった先の岩場は登れなくもなさそうだったが、またロープを出すのが面倒くさいので雪壁をずっと左にトラバースして、雪のついた急なルンゼから抜けた。思い切り左にトラバースを続ければもっと楽に抜けられたような気もする。飛び出た場所は頂上すぐ近くで、1分ほど歩くと頂上にたどり着いた。今までガスガスだったが長野側は晴れており、急に視界が開けた感じでとても爽快。樫さんと登頂を喜び、叫び、称えあう。こんなに充実感ある頂上も久しぶりだ。最近は気合を入れていった山にことごとく敗退していたので、今回バットレスから登頂できたのは素直にうれしい。
時計は2時を指している。あまりゆっくりもしていられない。写真を撮ってお菓子とお茶をしっかり補給して下降にかかる。

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↑登攀終了!

登山道に沿って下っていくと、吊尾根分岐の手前でツェルトをかぶっている人と遭遇。近くをヘリが行ったり来たりしている。話を聞くと、単独で登っていて滑落したが、別のパーティーの人がもう一人近くで滑落してヘリを呼び、併せて救助してもらえる手はずとなっているらしい。何か手伝えることはないかと聞いたが、既にヘリも来ているしこの場にとどまるのはむしろ危険だということで、僕らはそのまま降りることに。その後もヘリからスピーカーで「〇〇さ~ん、大丈夫ですよー」「もういちど行きますねー」などと声をかけるのが聞こえてきたが、それもやがて聞こえなくなったので無事ピックアップされたようだ。
八本歯を越えて昨日の幕営地に帰着。ガスはすっかり晴れ、またバットレスを抱えた北岳が悠然とこちらを見下ろしている。登ってる時も晴れていれば最高だったが、事故なく登りきってここに戻ってこれただけでも十分だろう。

デポしていた宿泊装備一式を詰めなおし池山尾根を下る。もと来た道でトレースもしっかりついていたので迷うことなく池山御池小屋へ。小屋には先客が2人いて、滑落して先に救助された方の同行者とのこと。今日の昼頃は尾根上で風が大変強かったという話だったが、僕らが登攀中にそこまで風を感じなかったことを考えると、やはりバットレスは東面なので冬型でも多少風から守られるのだろう。
夜は特に大宴会というわけでもなくしめやかに就寝。今日も一日よく頑張った。

3/24
最終日。今日は下山に注力するのみ。
登りでアイゼンが必要だったところは、昨日からの冷え込みでガチガチに凍り付いていてめちゃくちゃ怖い。本山行の核心はむしろここだったかもしれない。
鷲ノ巣山の登りが超絶しんどいのではないかと危惧していたが、登り始めると案外足が進んであっさり越えられた。あとはだらだら歩いて夜叉神峠駐車場まで。夜叉神トンネルの広河原側入り口には特に何の掲示もなかったので、通行止めは解除されたのかなと思って歩いて抜けたが、最後でゲートのところのおっちゃんから「ほんとは通行止めなんだよ」と注意をいただきながら通してもらえた。すいません。
車にたどり着いた時にはもう足が限界。新品の靴が合っていなかったようで、親指の爪が内出血を起こしていた。でもまあとにかく無事帰ってこれてよかった~。
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↑楽しそうな下山写真

韮崎まで下りて旭温泉で汗を流す。ぬるめの炭酸泉かけ流しで体の芯まで温まる。温泉愛好家界隈では有名な温泉らしく、管理人のおじさんがしきりに自慢していた。
温泉は飲用可能で浴場内でも飲めるのだが、おじさんのご厚意で冷蔵庫で冷やしたものをいただくと鉱物臭さが抑えられ格別だった。
温泉を出ると中途半端な時間帯だったので甲府市内の餃子の王将で適当にご飯を済ませ、甲府駅にて樫さんとお別れ。
関東に引っ越してもこうして一緒に登りに行ってくれるのは有難いことです。またよろしくお願いします。

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↑韮崎旭温泉

記:鹿