帰ってきてから、あっという間の二週間。
長い夏休みの間に溜まった仕事を片付けるため、馬車馬のように働いた。
今、やっと、のんびり紅茶など飲みながら、幸せだった山での10日間を思い出して
います。

今年の夏、岩峰会では南アルプスがちょっとしたブームのような感じでしたが、
私のこの計画は、実は7年越しの夢だったのです。

あの日、初心者マークのついた私とIちゃんは、雨の中、だんだん近づいてきている
台風の恐怖と闘いながら、悲愴な顔をして、北岳~農鳥岳の白峰三山を縦走していた。
2泊3日のコース。ガイドブックどおりの行程をきちんとこなすことに必死だった。
そんな中、一瞬の暖を求めて立ち寄った山小屋で、お姉さんが2人、ストーブの前で
楽しそうにお茶を飲んでいた。そして、衝撃的なひとこと。
「私達、10日も休暇あるし、のんびり行くの。今日は一日、ここで停滞かな~。うふふ。」
そんな山行のしかたがあるんだ。うらやましい!かっこいい~!!

雨の日は停滞。気に入った場所が見つかればそこにどっかり腰を下ろして時間を過ごす。
気の向いたところで一日を終了。
そんな、自分で決めて、自分で進むような山行ができるようになりたい。
そう思ったのでした。
その後、南アルプスはもっと南まで長く続く山脈であること、10日くらいで端から端まで
縦走できること、などを知り、ずっと夢見ていたのでした。

そんな思い入れのある山行の、ほんの一部を紹介します。
(山の紹介というよりは、ひとりごとのようになってしまいました。。)


いちばん最初に印象的だったのは、広河原から見た北岳。
山頂を隠すもの何もなくすっきり見えているのに、深~い緑の奥の奥。
南アルプスの山の奥深さ、山の大きさに感動。





最初の2~3日くらいは、自分の越えてきた山々を振り返って、ふむふむと満足したり、
行く方にどこまでも続く山を見渡し、どこまでもずんずん歩いていっていいんだという
喜びに浸ったり、そんなことを考えることが多かった。
出発前も、そんな楽しみを想像していた。




でも、いつのまにか。どのくらい歩いてきたか、どこまで行くか、なんて関係ないくらい、
今この場所、この山自体がステキ♪
と思うようになっていった。
山はほんのり秋の色合い。足元の草紅葉。まつむし草。
なかなか前に進めない。ひとつところに1時間、2時間・・・。
最近、「できるだけゆっくり進む」のが縦走のいちばんの贅沢だと思う。






そして6日目。7年越し夢の核心? 台風がやってくる。憧れの台風停滞だ。
百間洞山の家。計画段階から、ここだけは、テントではなく小屋の中に泊めてもらうかも
と思っていた憧れの小屋。
百間平から、ずんずん下りていくと、灌木が茂り、緑のトンネルの入り口ができていた。
私には、素敵な「洞」の入り口に見えた。
期待に胸を膨らませてトンネルをくぐり、更に下っていくと、小川のほとりに、可愛い小屋。
ここで過ごした2日間は、ほんとうに平和で大切な日々だった。
他に何もすることがない中、人との関わりの中で、普段は考えないことをたくさん考え、
気づかせてもらった。
やっぱり、人は一人では生きていけない。
小屋周辺の山の木々は、たった2日の間にも、だんだんと色を変えていった。
いつまでも、あの小屋のあの窓から、同じ景色を見続けていたかったなぁ。



いよいよ南アルプス南部。
だんだん山の雰囲気が変わっていく。
シラビソの樹林の中。土のにおい。苔むした倒木。その上に新しく小さい木。
時々、素敵なお花畑。
誰もいない、楽しい道。やっぱり歩くのは楽しい。



森の中で青い鳥を見た。
最後の朝、静高平からは、ぴかぴかの日の出と、黄金色に輝く草原を見た。
なんだか、これから先も、幸せな人生が待っているような気がした。



光岳山頂から、さらに南部に連なる「深南部」の山々を見て、まだまだ登る山がいっぱい
あることに幸せを感じた。また来よう。
変な達成感がないことが嬉しかった。




<とん>