記:仕立 亮一

屏風岩。横尾~涸沢間の登山道から眺めるそれは登攀意欲をかきたてずにはいられない。そんな大岩壁をもし自分の手と足だけで登れたら・・・そんな思いは初めてこの岩を見たときからずっとあった。今回は屏風岩初見参でまずは登りたい1本である、「超」がつくほど人気クラシックルートの雲稜ルートを登った。(やっと)

10/2 上高地~T4~雲稜ルート~T4ビバーク

槙野さんのファミリーカーで沢渡まで行く。上高地に入るには通行時間の規制があり、朝一番のバスに乗るべく並ぶ。早くから並んだ甲斐あって一番のバスにのることができ、7時半くらいに上高地に到着した。前回のお盆にきたときとちがい、天気はすっきりと良い。空気も澄んでいて遠く穂高連峰が眺められる。いい気分だ。体調もすこぶる良い。荷物も軽量化により軽いため、横尾までの道は山マラソンランナー?槙野氏にも負けずおとらず快調にとばすことができた。横尾に9時半くらいに到着。

少しの休憩後、横尾岩小屋跡までいき、そこで対岸にわたる。しかし丸木橋などはなく、けっこうな流れの川を靴と靴下を脱いで渡渉しなくてはならなかった。足が痛いほど冷たい。なんとか渡渉を終え、1ルンゼをがしがしと登る。登るにつれ、屏風岩が目近に迫ってくる。何度も見たルーと図と実際の景色がマッチしていく。いままでわからなかった「扇岩テラス」がはっきりと認識できた。T4尾根の取り付きには11時頃到着。今日のうちに昇るのはくるしいかな?とも思ったが、なんとなく明日の天気がわるそうなので天気も良いしとにかく行ってみることにした。T4尾根はもう立派なルートで、これをアプローチと呼ぶには酷というものだ。けっこう難しいムーブをまじえて2ピッチ登る。樹林のなかにルートは消え、適当にもう2ピッチ程進むと今夜の宿であるT4に到着した。時間も早いので雲稜だけでも登ろうと登攀準備を開始する。

登攀記録

1ピッチ目:ジェードルを登る。傾斜はだんだん急になっていく。けっこうおもしろいムーブがでてきてあまり本チャンぽくない。岩は硬いので安心。ここは後でもう一回登ることになってしまった。50mいっぱいのぼり、ピナクルのあるテラスでビレイ

2ピッチ目:ピナクルテラスから出だしの悪いムーブをこなし右上。途中も右にトラバースぎみに行き、そこから扇岩テラスまで左上する。わたしはここを直上しようとし、どはまり→気合のクライムダウンをすることになってしまった。まったく本チャンぽくないなあ。扇岩テラスはビバークもできるとても安定したテラス。景色最高!

3ピッチ目:真上のボルト連打をA1にて直上。左にはペツルのボルトがうってあり、下から見るとホールドは全く無いようにみえるが上から見ると案外ある。1箇所ガバもある。なんとかがんばれそう。でも出だしはスゲーむずかしいと思う。左から回り込むのかな?誰か挑戦してみてください。直上後は脆い岩場を右にトラバース。アンダーで持った岩が「めりめりっ」と剥がれた。ああ怖わ。ここだけは岩がもろいので注意が必要だ。トラバースしたらそこは東壁ルンゼだ。

4ピッチ目~6ピッチ:東壁ルンゼをスラブ登りでぐんぐん登る。けっこうオマケみたいに思っていたがなかなかどうして面白い。すこし風がでだし、寒くなってきた。上空はにわかにあんまりよろしくなさそうな雲に覆われだした。とりあえず樹林帯につっこむ直前のところまで行き、登攀終了とした。登攀終了16:00。さあ、下降だ。

下降
下降は同ルート懸垂とした。すごい高度感。慎重に何度も指差し確認しながら懸垂していく。トラバースしたところはまっすぐ降りると、きちんとした懸垂支点が打ってあった。さすがに人気ルート、なにも心配無くおりられる。そして最後の懸垂を終え、T4に降り立ち、「やれやれやっと終わったワイ」と安心したところ、ロープがひっかかり回収できなくなってしまった。やれやれ。プルージックでもう一度1ピッチ目を登らせていただく。うーん面白い?上に上がってみると、結び目がしっかりと岩に食い込んでおり、これはだめだなという感じだった。終わったと思ってからまたまたいい運動ができ、すこしの「ごぼう登り」でパンプもした。それプラスルートをやった充実感もあり、いやはや晩御飯がうまかった。

エピローグ
その夜・・「ゴロゴローどっかーん」というスゴイ音で目覚める。雷だ。雨と風もすごい。ぶっ飛ばされるのでは・・と心配しつつ寝る。なぜ寝れたか・・というのもゴアのツエルトだったからだ。ゴアで良かった。普通のツエルトだとまずびしょぬれだったに間違い無い。ゴアのツエルトはすごい。あれだけの雨だったのに体は全くといって良いほど濡れなかったのである。テントでもこうはいかないだろう。下に水とかが溜まってエライ目にあったであろう。しかし、ツエルトだったので水も溜まらず、水はけの良い地面であることも手伝ってまったく不快ではなく、またまた少しの幸せを感じたのであった。ゴアのツエルトは重いがこれは買いだ!(貸してくれた鮓本さん有難うございます)翌朝、雨は少しましになってきたようだ。そのかわりとても寒い。もう10月だというのにいまいち秋らしくなかったが、T4で一夜にして、夏から秋への変化を感じることができた。やがてT4に人が懸垂で降りてきた。、話を聞くと同じ京都の人ではないか。左京労山の野村さんであった。「屏風巡礼」を登っておられたそうである。そして昨夜はどうしたのかと聞くと野村さんはルート中でビバークしたそうである。われわれは前記したようにゴアツエルトのお陰でマシであったが、ルート中でビバークとは・・さぞかし壮絶だったであろう。野村さんはそのまま降りていかれた。われわれも後を追うようにツエルトを撤収し、いそいで下山した。東稜を登る予定であったがこの雨ではやる気はわいてこない。今度登ることにしよう。

なんだかんだでなかなか行けなかったルート、屏風の雲稜ルートにやっと行くことができた。山に登るようになって、はじめて横尾にいったときに見た屏風岩。いつかあそこを登れたらなあ、とずっと思っていた。岩峰会に入って3年。なんだかんだでなかなか行けなかったがやっといけた。人気ルートというのがよくわかる硬いしっかりした岩で、快適なクライミングを楽しむことができた。今度はオールフリーでいってみたい。横を登っていてペツルが打たれたルートを見ていると、十分可能性はあるように思えた。次回チャレンジしてみたい。