記:大住 宏明

 

 
 この物語は、今シーズンの沢登りに夢と希望をかけた川崎さんこと、八ちゃんの奮闘を描いたものである。またしても発端は私が深夜に開いた『沢のお誘い』メールからであった。
●7月18日 比良、ヘク谷

 川崎号で坊村へ。奧ノ深谷まで進もうとしたが、なんと運悪く坊村で葛川祭りが催されており、車は進入禁止。駐車スペースもなかったので、近くのヘク谷へ変更する。この時八ちゃんに『何かありますね!大住さんと来ると』といわれのない非難を受ける。

 ヘク谷の入渓口はわかりにくく狭く薄暗い沢という印象だったが、しばらく進むころには水量も少なくホールド豊富ないい沢に変わった。今シーズン初めての八ちゃんも、がんばってシャワークライムしている。ホールドの悪い6mの滝でザイルを出したが、ここを通過するのに半時間もかかってしまう。18mの滝は左岸を巻き後はほとんど直登できる。
半時間ほど藪こぎをして登山道に出て小女郎池へ。ここで先ほどの反省を込めてザイルワークの練習を行う。


 この日は後日有名になる『スーパームームー・プロトタイプ』のお披露目だった。しかし袖口が無く腕が出ないので上着が脱げない欠点がわかり、没となった。早急に再設計を行う。

 

●7月27日 比良、奧ノ深谷

 川崎号に荷物を積むとき、渓流足袋を忘れそうになった。すかさず『アルツ(アルツハイマーの短縮形)ですね!』とかまされる。

 今回は問題なく奧ノ深谷の入渓口まで車で進む。水量は少なく大きな滝以外は直登できる。二俣を過ぎてしばらくすると滑滝が現れ、昼食をとる。滑滝はウォータースライダーとして滑って遊ぶ。八ちゃんも遠い過去を思い出したように童心に返り、遊んでおられました。
水量は少ないながらも滝壺は深いので、できるだけ泳いで滝口まで近づいた。これは上ノ廊下遡行のための練習でもある。途中にある牛コバへの帰路を見のがしてしまい、大橋小屋まで登りつめ、そこから牛コバへ戻る。


 今日は袖口をつけた改良版『スーパームームー』のお披露目である。大きな問題点もなく、これを商品化することに決定した。

 詳細は岩峰webページを参照してください。

 

●7月30日 鈴鹿、神崎川

 八ちゃん不参加となり、非会員含め総勢10名で神崎川まで行ったが、雨と増水により中止。増水のパワーにあらためて感心する。
あとで、『私が参加できなかったので雨が降った』と八ちゃんが根拠もないのに、少し自信ありげに言っていた。


 『スーパームームー』を専属モデルのムームー小久保さんに着てもらい、宣伝用写真撮影。

 

●8月3日 比良、白滝谷

 比良の八幡谷へ行く途中で、なんとザイルの積み忘れを思い出した。今更取りに戻れないので、ザイルなしでも登れる白滝谷へ変更。この時八ちゃんから『ザイルを忘れるなんて、知的生物のする事ではない』と単細胞生物並の扱いを受ける。

 白滝谷は今シーズン二回目である。前回にもまして水量が少なく、白髪ノ滝以外は直登できた。その時私は気がつかなかったのだが、八ちゃんは小さな滝で滝壺に落ちて、根性で這い上がってきたらしい。その場面を見られなかったのが残念。

 

●8月6日 鈴鹿、神崎川

 鮓本さん、槙野さん、小久保さんという珍しい組合せでリベンジ。八ちゃん不参加であるが天候の問題もなく、天狗の滝までの往復だ。

 滑滝をウォータースライダーして遊んでいたのが原因か、下着代わりのスパッツのおしりが破れていた。着替えの時気づいていなかったので、小久保さんにただでおしりを見られてしまった。
小久保さん曰く『お金をもらっても見たくなかった!』


 

●8月12~13日 黒部、上ノ廊下

 八ちゃんがこの時のために連日の沢登りをこなしてきたのだったが、台風接近による増水の危険性と予備日がない計画のため、下ノ黒ビンガで敗退。

 後でわかったことだが、敗退と判断したことに対して非常に恨んでいたらしい。よかった、帰路八ちゃんの後を歩いたので黒部湖に突き落とされなくてすんで。

 

●8月23日 比良、八幡谷

 前回の失敗から学習しザイルを持って八幡谷へ。最初の堰堤を越すのが難儀である。しばらく雨が降っていないので水量は本当に少ない。泳がなくてもゴルジュ帯を難なく突破できる。二俣での昼食は、大石さんと沢登りのときは野菜と卵入りのラーメンをごちそうしてもらったと言ったのが効いたのか、ラーメンを作ってくれた。

 しばらく進むと上流の滝からホオジロらしき雛が落ちてきた。鳴声につられ降りてきた親鳥のもとへ返そうと、安全なところまで運ぶことに。手で捕まえながら登れないので、八ちゃんが被っていた帽子の中へ入れ、つぶれないようにザックに収納する。しかし雛は帽子の中にフンをしてしまった。しかし怒られたのはその雛ではなく私であった。『考えが甘い』と指摘される。

 上流部は水量もほとんどなく、しかも岩がもろい。直登していると両手でホールドしていた大きな岩が崩れてきた。岩を押さえ続けないと自分が落ちるので動けない。八ちゃんに上部より確保してもらおうとするが、八ちゃんも高巻きで動けなくなっている。なんとか自力で脱出するが、この後も岩を落としながら登っていく。今後行く人は要注意。

 尾根に出て武奈ヶ岳をピストンする。しかし両人ともアルツ気味なので下山用の靴をザックに入れるのを忘れ、渓流シューズで降りる羽目になる。下山路の細川尾根はかなり急斜で、しかも人が入らないのか落葉がたまり非常に滑りやすい。私は何とか乗り切ったが、八ちゃんはかなり地面にヒップアタックしていた。

 

●9月10日 鈴鹿、神崎川

 入会希望者、新入会員と総勢9名で参加。泳ぎが苦手な人たちは、まとめて上流からザイルで引っ張あげる。途中雨が降り出したが増水は気にならない程度。
この時八ちゃんは『私が来たのに雨が降るとは。誰かが降らしているのと違ぅ~』と言ってこちらを睨む。私は何気なく雨女とうわさされる、すいかちゃんのほうを見ていた。
休憩の時、ザックを開けると二重にしていたポリ袋の中は水浸し。両方のポリ袋に穴が空いていた。『偉そうなことを言うわりには詰めが甘い』と八ちゃんよりお言葉を賜る。


 結構気温が下がってしまい、鮓本さんの予言どおり昼食のメニューが素麺から煮麺に変わった。八ちゃんは徒渉の時気軽に石づたいに飛んでいたが、期待に反して足を滑らすことはなかった。
天狗の滝までの往復だったが復路は大幅に時間がかってしまい日没寸前。『
スーパームームー』は女性陣にはおおむね好評であった。

 
 以上、川崎さんこと八ちゃんからありがたいお言葉を数多く賜りましたが、あまり人生に影響を与えられた様子はありません。 これらの沢登りが来年の上ノ廊下遡行の成功に、少しでも貢献できることを望んでおります。