記 中島 憲一

 山の映画といえば、シルベスタ・スタローンの『クリフハンガー』や『バーチカルリミット』とかの山岳アクション大作が、まず思い浮かびます。確かに派手で面白いけど、これほど山ヤをバカにした映画もないでしょう。心あるどなたか、是非このコーナーで非難していただきたい。

 中高生の頃(1970年代)はテレビっ子で、テレビの洋画劇場なんか大好きでした。毎週複数の映画を見ていたから、なかには山が舞台の映画もありました。

 クリント・イーストウッドのスパイ・アクション『アイガー・サンクション』。トニー・ザイラーのスキー映画『黒い稲妻』。ドイツ軍の収容所を脱走したイギリス兵が、一頭の象とともにアルプスを越えて逃げる『脱走山脈』。都会からロッキー山中に移住した一家を描いた『アドヴェンチャー・ファミリー』とか、山の映画を何作も見た記憶があります。(残念ながら、ストーリーはすっかり忘れています。)

 その頃はまだ登山と無縁でしたが、何故か印象に残っている映画が『山』です。

( 原題 「 The Mountain 」 1956年 パラマウント映画

エドワード・ドミトリク監督 スペンサー・トレーシー ロバート・ワグナー主演 )

 もう何十年も前のことで、ストーリーも映画のシーンもはっきり覚えていませんが、登山ハンドブックシリーズ・第四巻『山の心』に、この映画のことが少しだけ載っています。これを参考に、ストーリー紹介と感想を書いてみたい。ただし、間違って解釈しているかも知れないので、知っておられる方は指摘願います。

 ストーリーは、アルプス山中に旅客機が墜落し、救援隊が山に向かうが、悪天候とクレバスに阻まれ捜索は難攻する。冬が近づいて、ついに捜索は打ち切られ、春まで持ち越されることになった。地元の兄弟は、絶壁を登りきれば墜落現場に辿りつけると考え、弟(ロバート・ワグナー)が元ガイドの兄(スペンサー・トレーシー)を説得し、嫌なら一人ででも行くと言い張ります。

 結局、兄は弟に同意し救助に向かいますが、弟が乗客を救助するため兄を誘ったのでは、話しは面白くもなんともありません。弟が旅客機に残された金品を掠め取ろうとたくらんでいたのは、言うまでもありません。

 二人は絶壁を登り始めますが、この登攀シーンがロケだったか、スタジオセットだったか覚えていません。というか、岩登りを全然知らなかったから、どんなふうに見ていたのかも覚えていません。ただザイルを直接腰に巻いて登っていた記憶があります。ちなみに前出『山の心』では、「当時としては、よく出来たセットを使って、岩壁のトラバースやチムニ-の登攀など面白くみせた」と解説されています。

 この悪絶な壁は弟の手におえず、兄が必死の形相で攀ります。困難な岩壁は兄の闘争心を燃えたぎらせ、攀じり続けるにつれ険しかった表情が、いつしか満足感と悦びにかわります。そして、ついに絶壁を登りきった兄が「あともう少し頑張れば、頂上に行ける」と言って、更に登り続ようとしたとき、弟から「頂上じゃない、墜落現場へ行くんだ」と言われ、ハッと我にかえり、「そうだった。乗客を助けに行くんだった」と、つぶやくシーンは何故かはっきり覚えています。

 この絶壁が未登であれば、話しは更に深みを増すわけですが、これは私の記憶が定かでありません。目的がどうあれ、ひとたび岩壁に取り付くと一切の雑念が消え去り、ただひたすら攀じることに集中する。「クライマーの業」というか、このような心情に私もクライマーのはしくれとして大いに共感しますが、当時中学生の私は、「そんなもんかいな」ぐらいにしか思っていなかったでしょう。 

 さて、二人は墜落現場に着きますが、壊れた機体の中で、奇跡的に高貴なインド人女性が生き残っていた。兄は女性を搬出するため、旅客機のドアでそりを作り下降の準備を始めます。

 弟は、女性の宝石をかっぱらって逃げようとし、兄と口論になりますが、一人では絶対降りらず仕方なく一緒に降りたのか、女性を助ければ莫大な報償が得られると思ったのか、とにかく二人は女性を山から降ろしますが、怪我した女性をどうやって降ろしたのか、記憶が飛んでいて思い出せません。

 覚えているのは、一行は氷河まで降りてきますが、そこには、ずたずたのクレバスが待ちうけていた。兄が女性の乗ったそりを引っ張ってクレバスを渡った瞬間、スノーブリッジが大崩壊してしまう。後に取残された弟は、焦って強引に渡ろうとして、クレバスに転落してしまう。

 最後、兄は疲労困憊になりながらも、女性をおぶって麓まで降りてきます。村人にねぎらわれ、兄が振りかえったとき、そこには非情な山が、ひときわ高く聳え立っていた・・・。

 兄の意志の強さ、勇敢さ、人間としての気高さには心をうたれる。しかし、山はそうした人間の営みを超越したかのように、高く、険しくたちはだかっている。

 登山を知ってから、ラストシーンの意味をこのように解釈しているのですが、どうだろうか? それはともかく、なかなか印象深いラストシーンで、後年山好きになった伏線は、このラストシーンが記憶の中に刷り込まれていたからかも知れない。

  そういう訳で、山に登りだしてから、もう一度この映画を見たくなり、レンタルビデオで捜したり、テレビやBSの映画劇場をチェックしていますが、なかなか見つかりません。インターネットで検索したところ、VHSのビデオが発売されていたみたいなので、心当たりのある方は連絡願います。

 ただ、この原稿を書きながら、映画を見て感動がよみがえるのか、或いは現実離れした設定にしらけてしまうのか、ちょっと気になっています。

 < 参考文献 >

 登山ハンドブックシリーズNo.4『 山の心 』 第7章 山の映画

    ( 山岳研究会・編集 ベースボールマガジン社 初版1979年 )