文責 家山
あぁ私はなんてムダな労力を使ってしまったのだろう。以前の「雑誌の。。。」に書いたように「岳人」の連載で興味深いものがあり、もう一度読み返すためにスキャナで各号の連載部分を読み取りしていたのに。。。
その興味深い連載の二つがこの本の著者である菊池さんが書いた「その登り方危険につき」と「平成の登り方」。本書がその連載のベースになっているとは全く嬉しい限り。
あぁ、だれか時間とCD-Rを返して下さい。


■技術書とは
 通常、技術書と言えばイコール「マニュアル」ですよね。正しい技術の手順、方法を紹介、説明していることになっています。過去、その「正しい」とされる技術の紹介や、「ムーブ」や「ルートの攻略」までを紹介する書籍は多くありました。それはそれなりに勉強になりましたし、同じ技術の紹介でも言い回しがそれぞれ異なったりするのでいくつかの書籍を読み通しながら、自分に合ったものを探して欲しいと思います。
 技術書のカテゴリとして良いかは不明ですが、「生と死の分岐点」では間違った技術、失敗による遭難など唯一「間違ったこと」にフォーカスされた書物はありました。

■技術書の弊害
 上記の通り、正解が記載されていますので、読んだだけで技術を習得した気持ちになってしまいます。先日の金比羅でも気付いたのですが、これは非常に恐ろしいことである認識をしました。また、現代の風潮なのですがマニュアル化されることにより正しい手法を身につけやすくなった反面、理論が不足し、マニュアル以外の応用動作ができない(もしくは不要と勘違いする)ことが多くなってきたと思います。
 クライミングであれ社会生活であれ恋愛であれ決してマニュアル通りには行かないことはみんな知っているはずですよね?
 自戒も含めてなのですが、技術書を通じて目に付いた技術はまず室内などで繰り返し練習し、またフリーや金比羅などのゲレンデで実際に使用してみながら、確実な技術として身に付けたいと思います。修得した(つもり)の技術の確認や、忘れた(忘れそうになった)技術の再認識、トラブルなどを想定した対処の確認(シミュレーション)がトレーニングの本質だと思いますが。。。
 
■他の技術書と違うところ
 本書はその応用部分について深堀されています。「岳人」の連載時からそうだったのですが、「危険」、「やってはいけない」「正解技術の理論」詳しく記述されています。表題の通りほぼ「最新の」技術や理論に基づいているので反論の余地はほとんどありません。
 失敗や怪我、ましてや遭難を少しでも回避することが少し備わったような気がします(最後はあくまで現場での確認や経験が必要でありますが)。
 本来この本の内容にあることは現場で経験と研究を重ね、綿々と受け継がれてきたことなのかもしれません。でも時代が変わってきた以上、現代には書物(=マニュアル)として必要な内容にまとまっていると思います。

■内容
 技術的な内容としては、現在の技術として非常にまとまっています。特筆すべきは、なぜその技術か、間違いは何か、間違うとどうなるか?「。。。しない為には」の事柄について各々にちりばめられています。序章には、クライミングに対しての認識や姿勢について記述されており、自戒をこめて再認識することができました。

 ここで詳しく述べても何なので、購入して熟読して下さい。「雑誌の。。。」にも書きましたが、図書館でなく、枕元に置くぐらいのつもりで。

■どんな人に読んでほしいか
 まずは一通りの技術書を読んだことがあり、現場経験がそこそこある人たちのほうが読み応えあると思います。間もない方たちにはクライミングにはこれだけの「間違い」や「危険」が潜んでいることを認知し、現場での技術習得の姿勢を問い直し、応用動作の必要性を感じるだけでも価値があります。
 フリー専門でもアルパイン指向でもクライミングである以上技術は共通ですからそこは問わないと思います。

 個人的には本書をベースにじっくり勉強、修得できる機会を作っても良いかなと思うほど現有としては完成度の高い本だと思います。
 私は仕事の移動中、トイレの中など今一番手元に置いている本です。みなさんも興味がありましたら読んでみて下さい。ただし!もう一度言いますが、読んだだけで「出来るようになった」とは思わないで下さいね。
現場での経験の蓄積が最後の技術ですから。

以上