登山を始めた頃、北の利尻岳と南の屋久島・宮之浦岳だけは、ぜひ登りたいと思っていました。ただ、岩峰入会後の山行が登攀中心になってしまい、北の島と南の島を訪れる機会はありませんでした。爾来〇十年、この都度念願かなって、我が会の御大K氏に誘われ屋久島を訪れました。

 私は初めてでしたが、K氏は50年前の若かりし頃の冬に、宮之浦港から登り始め、白谷雲水渓、縄文杉を経て雪の宮之浦岳に登り、永田岳から永田浜に降り立ったと云う。若き日に、海抜0メートルから2000メートルの縦走をしたK氏にとって、屋久島の再訪は感慨深いものがあったのでしょう。

 期間:2017年7月13日~19日  メンバー:K御大、ナッキーニャ

 7/13 

 早朝、鹿児島港のフェリー乗り場の自動販売機で乗船券を買っていると、外人バックパッカーから「スイマセーン!」と声をかけられた。「 Pois não  ? 」と、とっさの一言をポル語で返してしまったので、相手も困惑してスマホを操作し日本語翻訳文を示してくれた。島に数日滞在するので、有効な往復乗船券を買いたいとのこと。バックパッカー相手のトラベル英語など、単語の羅列で通じるはずですが、私の英語はポル語が混ざってしまい、説明するのに四苦八苦しました。

 初っ端から、いきなり厄介な目に遭いましたが、これも旅の思い出(?)。前日に九州南部が梅雨明けしていて、フェリーは平穏に出港しました。鹿児島湾の内海は波も穏やか、デッキに出て桜島と鹿児島の街を眺めていると、アマゾンの大河を何度もフェリーで渡ったことを思い出しました。しばらくして開聞岳が見えてくると、いよいよフェリーは外洋に出て、一路「屋久島」を目指しました。

02フェリーは宮之浦港へ、下界は晴れているが山の方は曇っている。

  昼過ぎに着いたので、この日は島内東部をドライブし尾之間温泉に入った。湧き出た源泉そのままの湯でとにかく熱かった。私は我慢して長湯していたけど、地元の人は殆どがカラスの行水です。この夜は安房のキャンプ場が分からず、駐車場で車中泊になった。

 7/14

 朝起きると晴天で夏の日差しが眩しい。山の上も晴れ上がっており登山日和です。安房から紀元杉までバスで入り、原生林の森を歩く。登山道は良く整備されていました。

 

03森の中には屋久杉の巨木が点在しています。

  平坦な森を歩くのも淀川小屋まで、吊り橋を渡っていよいよ登りになると、御大のペースがガクンと落ちた。若手のハイペースについていくのもシンドイけれど、ジイサマのスローペースもたいがいです。たいして担いでないザックが肩に食い込み、なによりも暑い。たまらず御大に、「花之江河で待っていますから」と言って、先に行かせてもらった。

 

04花之江河は綺麗な高層湿原、ただアブが多いのに閉口しました。

 木道で寝ていると大分遅れて御大が来た。これよりメインルートを外れ石塚小屋へ向かった。石塚小屋は如何にも「避難小屋」てな感じの陰気でカビ臭い小屋で、今夜の泊まりは我々だけ。ツェルトビバークよりはマシですが、夜中にネズミが出没したのに慌てました。

 7/15

 この日は、宮之浦岳から新高塚小屋までの行程。私は永田岳をピストンしたいので、御大とは別行動にさせてもらう。黒滝から主稜線に出ると、亜高山の植生に変わり、抜けるような青空が眩しい。ボルダー風の花崗岩が、あちこちに点在していて海も見えます。

 

05稜線で見かけた、無心に草を食むヤクシカ。

06屋久島・宮之浦岳(1935m)は九州の最高峰です。

 稜線に出てからも、栗生岳ぐらいまでは晴れていましたが、宮之浦岳に着いた頃には雲が出てきて、残念ながら海を眺めることは出来ませんでした。また、ヤクシカやヤクザルが頻繁に出没していましたが、コンパクトカメラでは、どうしてもシャッターチャンスを逃がしてしまいます。

 

07永田岳は岩場が多い。山頂の岩で憩う。 

 永田岳をピストンして分岐点に戻り、御大を待つべきか迷ったけれど、とにかく暑くてややバテ気味。先に小屋に行くことにしました。新高塚小屋には16時着。割と広い小屋で登山者は多かった。2人分のスペースを確保してホッと一息。疲れているせいか、酒飲むと寝てしまった。

 ふっと起きると時刻は19時。そろそろ日没ですが御大はまだ来ない。この様子じゃビバーク確定だろう。今夜、雨が降ることはないし、高齢とはいえ経験豊富な人だから心配はしていないけれど、明日は一応、嘘でも心配しているフリをして迎えに行かねばならない。あんまり食欲はないけれど、明日の登り返しに備えて晩飯を食っとかねばならない。食事の支度をしていると、何と日没間際に御大が小屋に到着した。聞けば、やはり暑さで気分が悪くなり遅れたらしい。さすがに疲れ切っておられ、お茶だけ飲んで横になられた。

7/16

 今日は、縄文杉とウィルソン株を見て、森林軌道沿いに荒川登山口に下山する行程。

 

sugi640樹齢2200年~7200年と云われる縄文杉。

 さて、縄文杉は根を保護するため近寄ることが出来ず、デッキからの見学になりました。我々は早朝に着いたので、デッキに殆ど人はおらずゆっくり見学できました。しかしその後、ツアー観光客が続々と押し寄せ、ざっとみても500人以上。当然、登山道となる木道は大渋滞でした。御大は昨日、足が攣ったそうで今日も痛そう。今日は下るだけですから、タクシー覚悟で付き添うつもりでした。が、ウィルソン株で「先に帰ってくれていいよ」と言われると、帰りのタクシー代が惜しくなり先に降りることにしました。(セコい話でスイマセン)

 

09ウィルソン株の内部は広い空洞になっています。

10森林軌道に出没したヤクザル。

 荒川で1時間程バスを待ち、14時に安房の駐車場に戻った。することもなくビール飲んで待っていると、御大は16時過ぎにひょっこり帰ってこられた。一休みしてザックを整理した後、スーパーで買い出ししてから、楠川温泉で汗を流しさっぱりしました。

7/17

 この日は「海の日」。どこまでも青く拡がる東シナ海を眺めながら、島内北部をドライブしました。白亜の屋久島灯台は、絶好のビューポイントでカッコ良かった。永田の集落を巡ったけれど、御大がその昔、下山後に泊まったと云う旅館の面影はなかった。たまたま昼メシに立ち寄った小料理屋で、女将が近所の人が釣ってきた魚の刺身をサービスしてくれました。屋久島が世界遺産に登録された頃は、観光客も多かったけれど、長引く不況と東日本大震災以後、観光客は半減し今は外人観光客が増えているそうです。

 

12ウミガメが産卵に上陸する永田いなか浜。口永良部島が望める。

13「海の日」に紺碧の海で泳ぐ。

 その後、屋久杉自然館を見学し、夜は、安房の「屋久どん」で地元名物の旨いモンを食しました。焼酎のポンカン割が甘くて美味しかった。(画像は観光ガイドから流用しましたが、メニューは同じものです。)

14トビウオの姿揚げとサバ節でダシを取った屋久島風うどん

 7/18

 この日は島内南部の観光で、青少年旅行村やフルーツガーデンを巡った後、平内海中温泉でくつろぎました。

 

15野趣あふれる平内海中温泉

 一人のんびりと湯に浸かっていると、徐々に潮が満ちてきて、御大から「オ~イ、早く上がれ!」と怒鳴られた。満潮時は波にさらわれるから入浴禁止時間になったのかと思い、慌てて服を着て戻ると「登山で島に来たオバチャマが、入浴したがっているからオマエは出ろ!」とのことでした。(余談ですが海中温泉は混浴で水着禁止です。)

 その後、縄文遺跡を巡り、白谷雲水渓を散策しました。明日で屋久島ともお別れ、山ヤなんぞ普段から、地元にゴミは落としてもカネは落としませんが、ここは本土から遠く離れた離島。最後の夜ぐらい、気持ちよく島にお金を落としたいものだ。この夜は宮之浦の民宿に泊まり、トビウオの姿揚げと地魚の刺身を堪能しました。

7/19

 夜半から激しい雨が降り続いている。屋久島に来てからずっと晴天でしたが、返る日になって雨。民宿に泊まって正解でした。やっぱシブチンではいけませんな。この日は、予定していたヤクスギランドの散策を中止して、屋久島資料館を見学しました。その後、最後の思い出に、あの熱い尾之間温泉を再訪して旅の疲れを癒してからフェリーに乗り込み、屋久島を離れました。

 こうして、山と海と温泉とグルメの旅は終わった。思い出に残る楽しい旅だった。まずは同行のK御大に感謝します。屋久島には、まだ観光化(俗化)されていない素朴な良さがあります。また、地元ガイドによるエコツアーが盛んで、トレッキングだけでなく、沢登り、シュノーケリング、カヌー、サイクリングに加えて、ウミガメを観察するナイトツアーまであります。会員の皆様にも、普段の登山とは一味も二味も違う、屋久島の山旅をオススメします。

 私も「次は雪の宮之浦岳に登ろうか・・・」「今度来るときはダイビング機材を持ち込んで、海底10mから海抜2000mまで、山と海を堪能しようか・・・」「いや、その前に北の利尻岳をゲットせねば・・・」なんて思案しています。