記 中西正大 

 約15年前にも「私の思い出の山」というシリーズがありました。2年程続いたと記憶していますが、その時には「初恋の山 伊吹山」というタイトルで私の若かりし「カルピスの味」を書きました。それから15年の歳月が経ちましたが、比較的コンスタントに山に登り続けることが出来、とてもうれしく思っております。その間「日本百名山」を最優先にした為、ずい分個人山行的な登山が多く、5月の春山合宿、8月の夏山合宿、そして正月の冬山合宿(これは別の理由ですが)と勝手してばかりで申し訳なく思っておりました。

 お陰様にて昨年10月に東北・安達太良山に登り、私の「日本百名山」は完登することが出来ました。最北の山、利尻岳。知床旅情の歌を心ゆくまで唄ったラウス岳。滑床が最高に素晴らしかったクワンナイ川からのトムラウシ。苦しく涙なしでは登れなかった岩手山。登山禁止の立札を横目に見ながら登って、ガスの切れ間より瞬間的に見たコバルトブルーのお釜の素晴らしかった焼岳。加藤文太郎・松波明の北鎌尾根からの槍ヶ岳。オーバーな表現をすれば命を張って登った2度の正月、早月尾根からの剣岳。坊ヶつる讃歌に憧れた法華院温泉、九重三群。今年の2月、遭難という感じを少しだけ味わった雪の屋久島、宮之浦岳。エーデルワイスに最も近い花ハヤチネウスユキソウの咲いていた早池峰。北アルプス雲の平近くにある山上の露天風呂に満天の星を眺めながら美女と2人で入った、いや入りそこなった高天原温泉・・・。まだまだ沢山の山がありますが、今回はやはり百座目となった東北安達太良山の話をしよう。

 昭和56年11月初めにT君と2人で蔵王山、吾妻山、磐梯山と登り、最後に安達太良山に入山した。裏側というか、磐梯山側より入山し、その夜は沼尻温泉に泊まった。翌朝小雨の中登りはじめたが核心部の沼平付近ではガスってしまって方向もあやしくなり、心細い思いをしたが、何とか稜線まで登り切ったが、あいにく台風くずれが近づいていて、稜線では突風で吹き飛ばされそうになりながら、それでも根性で頂上を目指したが、やはり風が強すぎ、時々バランスをくずしそうになる。T君が「中西さん、あきらめて下山しよう」と盛んに勧めるが、私としては折角ここまで来たのだからもう少し風が弱くなるのを待とうということで、稜線より風下の太平洋側の斜面で30分程ツェルトを被りながら待っていたのだが、やはり風はおさまらなかった為、諦めて奥岳温泉へ無念の下山をしたのであった。

 そして今回、この安達太良山が百座目の山となったのである。平成5年10月8日の夜、新幹線にて出発。小田原で在来線に乗換え茅ヶ崎駅で下車して、今回のパートナーであり、私を初めて山(比良山)に連れていってくれた親友のU君宅で泊めてもらった。翌9日、やはりガスの中で登り、本当の頂上を踏んでいるかと不安だった蔵王山に先ず登った。前回と違い今回は予報に反して快晴となった。

 白石蔵王駅で下車して、バスにて刈田岳頂上駐車場着。観光客で人・人・人・・・。頂上へは30分程で登れるのだが。時間もたっぷりあり、お釜までおりてみた。そして再び登り直して頂上である熊野岳に立った。前回はガスの中、ポールに導かれての頂上であったが、今回は最高の天気である。下山は山形側へバスで下り、山形新幹線と在来線にて二本松駅着。タクシーにて岳温泉に入り、一番奥にある高級旅館・・・の横にある岳神社(?)の境内にテントを張り、軽く飲んでから寝た。

 翌朝も晴れわたり気持のよいスタートである。バスにて奥岳温泉に着き、いよいよ歩き始めた。マイカーも一杯でほとんどの人がリフトにて中腹まで乗られるが、我々はもちろん歩いて登った。紅葉も今が盛りと紅、黄、緑・・・。最高に素晴らしい色相を見せてくれる。薬師岳よりリフトの乗客と合流した為、満員である。時には下山者の団体でチョット・タイムとなることもあった。だんだん頂上に近付いてきた。

 平成5年10月10日、午前11時。夢にまで見た「日本百名山」完登の瞬間である。U君と堅い握手をする。心なしか目が心がうるんでいるようである。数年前よりU君に無理を言って、是非一緒に100座目の安達太良山を登ろうと言っていたことが本当に実現したのである。友も心より喜んでくれた。そしてここまで自由に遊ばせてくれた妻に先ず、心より「ありがとう」と心の中で叫んでいた。軽く行動食をとった後、下山にかかる。下山ルートは前回と逆コースで沼ノ平より沼尻温泉へ下りた。今日は快晴なので全景がよく見える為、私でも安心して歩ける。前回断念した地点は頂上より10分位の稜線であった。火口底の沼ノ平より見た稜線は無気味な風景である。明治30年には大爆発があり、70人余の犠牲者が出た硫黄採掘跡を過ぎ、元湯のある沼尻まできた。ここでは湯ノ華(花)を採っている様で、その一角には作業者用に風呂があったので、失礼して入れてもらった。狭いながらも本当の元湯で気分は最高。その夜は、横向温泉に入って豪勢に飲み(?)満天の星を眺めながらテントで寝た。翌日は磐梯高原にある五色沼を散策して快晴に恵まれた3日間は終った。次の目標は誰がいったか「都道府県の最高峰」とか。バカヤロー!!

 そんな暇はもうないわ・・・でも心のカタスミに!!

 

 次号の担当は 奥君です。